無資格・未経験から保育ママに
話を聞いた人
Image may be NSFW.
Clik here to view.
平山 奈穂子さん(家庭的保育者)
40代まで会計事務所で働いたのち、区の広報で家庭的保育者の募集を見て保育ママになることを決意。2013年に東京都足立区で認可家庭的保育事業者の認定を受け、翌年「ひだまりおうちえん」を開設。
──長年会計事務所で働いていたそうですが、そこからなぜ家庭的保育者の道へ?
平山さん:幼いころは保育士になるのが夢でしたし、息子を保育ママに預けていたこともあり良い印象を持っていました。きっかけは、48歳で胃がんが見つかり会計事務所を離職したころ区の広報紙で保育ママの募集を見つけたことです。改めて今後の人生を考えたとき、本来やってみたかった仕事に就こうと思ったんです。経歴・資格に関係なく目指せる点も大きかったですね。
──応募してから家庭的保育事業を始めるまではどのような流れでしたか?
まずは区の保育課に問い合わせてから、担当者が自宅の視察に来ました。いまは賃貸アパートで保育室を開いていますが、以前は自宅だったので保育スペースが確保できるか、安全面などをチェックされましたね。
保育場所に問題がなければ区の担当者の面接を受け、それから研修という流れで、1ヶ月間(125時間程度)の座学研修と家庭的保育の見学実習が2日間、保育所での実習が3日間ありました(2013年当時)。
研修後には認定試験があり、結果発表後に区の最終確認を経て合計半年くらいでしょうか。合格の知らせを受けてから2ヶ月後に保育室を開設できました。
──座学だけでなく保育実習もあるのですね。初めての保育の仕事に不安は感じませんでしたか?
研修と実習で保育について学べましたが、当時は学び足りないと感じましたね。発達障害など個人的に深く学びたい分野は、自主的に研修や勉強会に参加して知識を補いました。
保育士や幼稚園教諭の資格がなくても*必要な研修を受ければ保育ママになることができます。実際にこの10年続けてみて、資格の有無よりも人間性のほうが大切かなと。
とくに、家庭的保育事業の対象は3歳未満でまだコミュニケーションがうまくできない年齢の子たちです。表情をよく観察してどう思っているかくみ取るスキルが重要だと感じますね。
*自治体ごとに保有資格の規定は異なる
保育ママの一日と仕事内容
──業務について教えてください。現在何名の児童が通っていますか?
いまは0歳児が1人、2歳児が3人の合計4人です。児童が4人以上になると保育補助が必要なため、補助さんに来てもらっています。補助さんは合計5人いて、毎日来てくれる人もいれば1〜2ヶ月に1度都合が合う日だけ来てくれる人など、それぞれのペースに合わせて働いています。
一日の流れはこんな感じですね。
Clik here to view.

ひだまりおうちえんの特徴は外遊びでたっぷり体を動かすことです。公園までよくお散歩に行きますし、そこでおもいっきり走ったりどんぐりを拾ったりしていますよ。
Clik here to view.

──たっぷり体を動かすと食欲も湧きそうですね。昼食は保育室で調理しているんですか?
以前自宅で開いていたときは各ご家庭で作ったお弁当を持参してもらっていましたが、現在は調理員さんに来てもらい、毎日作りたてのご飯を提供しています。レシピは区から支給されるので、栄養面もばっちりですよ。
Clik here to view.

──2016年に「子ども・子育て支援新制度」が創設され自治体の認可事業になりました。業務面での変化はありましたか?
補助金が出るようになったのはありがたいのですが、その分事務作業が増えましたね。勤怠や収支関連、給食の記録、指導内容の提出など書類は多岐にわたります。また、安全や危機管理、衛生に関する研修の受講も義務付けられているので、参加のための時間も必要です。
子どもたちの成長が糧
Clik here to view.

──毎年足立区が実施している利用者へのアンケートで、保育ママの満足度は90%以上と高い結果となっています。その理由は何だと思いますか?
一人ひとりきめ細かくみられるところが評価されているのかなと思います。児童3人につき1人の保育者がつくのは保育所と同じですが、児童数が最大5人と少ないので、小さな変化にも気づき対応できます。
あと、子どもたちにとって家にいるのとあまり変わらないからかなと。保育者の自宅や賃貸物件の一室なので、雰囲気や匂いが落ち着くのではないでしょうか。
保護者からはよく「ここで一緒に過ごしたお友達とは卒室後も特別仲が良い」と聞きます。子どもたち同士も家族のような間柄になっているのかもしれませんね。
──たしかに見学中、子どもたちが年齢関係なく一緒に遊んでいる姿が印象的でした。反対に保育ママを10年続けてきて課題は感じますか?
以前は児童3人に対し私一人だったので、閉鎖的に感じたことはありますね。いまは補助さんたちに来ていただいているので、いろんな意見を聞けるのはやはり良いなと思います。
あとは、保育ママの認知度が低いことでしょうか。足立区は家庭的保育者数が123人(2021年度)と全国的に見て非常に多い地域です。しかし、いまだ「保育ママって何?」「怪しい」と思われてしまうことも少なくありません。
保育ママ仲間には、児童が集まらず受託なしという人もいます。自治体も紹介ページや動画の制作など尽力いただいているのですが、なかなか認知拡大を実感できないのが現状です。
──保育ニーズが多い3歳未満が対象なので、選択肢のひとつとしてまずは知ってもらうことが大切なんですね。最後に、保育ママのやりがいを教えてください。
なんといっても、子どもたちの成長を感じたときですね。まだコミュニケーションが取れない月齢で入ってきた子が少しずつ言葉を覚えて、こちらが遊びを提案したときに「いいね!」とか「やりたい!」などの反応が返ってくるとうれしいです。
子ども同士で喧嘩になったときも、自分の意思を表現できるようになったんだなと感じますし、お家のように過ごせているのかなと思います。
保育の仕事が憧れだったこともあり、子どもたちに関われることはありがたいですし、なにより楽しいです。アットホームな環境を希望される保護者にはもっと保育ママの制度を知っていただき、選択肢の一つになれたらうれしいですね。